コラム

Vol.13

by ひきたよしあき 2018.10.01

次男坊のコトダマ

私には、5歳年上の兄がいます。

兄は、身長が178センチ。
私は、163センチ。

「同じものを食べされているのにねぇ」

と母がため息まじりに私の顔を見ます。

が、私には思い当たるフシがあります。

私が小学3年生のときですから、
兄は中2でしょうか。

かなり高価な湯飲み茶わんを頂きました。

夫婦茶碗でした。
兄が「欲しい」というので兄弟で
使うことになったのですが、
兄は当然のように、男茶碗をとりました。
私は選択する余地もなく小さな女茶碗を
使うことになりました。

成長期になったのに思ったように
身長が伸びない私は、茶碗を見て
はたと思いました。

「知らず知らずに、小さくなるように
育てられているのでは・・・」

よく考えると、使っているタオルケットも
兄は青、私はピンク。
着ている服の大半は、兄のお古ばかりです。
オルガン教室に通うカバンも、兄の名前が
マジックで消されて、横に小さく私の
名前が添えてありました。

「次男坊の悲哀・・・」

と、ずっと思っていました。

後年、兄と酒を飲みながら、この件について
話す機会がありました。

「俺は、逆に思っていた」

というのが兄の弁です。

なんでもかんでも

「おにぃちゃんなんだから我慢しなさい」

と言われていた。

「俺が、お祭りに行って子どもだけで
焼きそばを食べたとき、親父が烈火のごとく
怒った。でも、お前のときは誰も叱らなかった」

「それは、興味がなかったんだよ」

「いいや、違う。お前の方が自由に育てられた」

とお互いを羨ましがっている。
この論争に、終止符が打たれることはない
でしょう。

しかし、今考えれば、次男坊って
いいものだなと思えるのです。

「次男なんだから、しっかりしなさい!」

と言われたことは皆無ですので、
多少、できない科目があっても、成績が
よくなくても怒られることはありません。

嫌いなものを無理してやるという
ことはなく、好きなことを好きなように
やってここまで生きてきました。

子犬は、お母さんの乳房のどの位置を
吸うかによって、リーダーシップ気質や
ムードメーカー気質が決まるといいます。

人は、生まれた順序や男女の順列組み合わせ、
一緒に育つ人数によって、役割が違って
くるのかもしれません。

「おにぃちゃんなんだから」というコトダマを
聞いてしっかり育つ長男・長女
「あまったれ!」というコトダマを上手に使って
生きる次男坊。

それらが色々混ざるから、世の中は深く、楽しく、
面白くなる。

同じものを食べていても、違うように
育つところが、人間社会をより面白くしているに
違いありません。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)
    「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」
    (かんき出版)他3冊。