コラム

Vol.40

by ひきたよしあき 2019.11.05

手帳のコトダマ

そろそろ新しい手帳に切り替える季節になりました。

毎年買う手帳は決まっています。
それでも文具店や書店に設置された
「手帳コーナー」を眺めるのは楽しいもの。
来年に思いを馳せながら、日付の入った
真っ白いページをめくると、真新しい未来が
手付かずのまま掌にのっている気分になります。

ふだんは、スマートフォンでスケジュールを
管理しています。
編集しやすいし、仲間と共有もできる。
何よりいつも手元にあるので使い勝手は抜群です。

しかし、長年、紙の手帳を使い続けてきた私は
スマホだけではどうにも不安です。
紙の手帳を併用しています。

理由は簡単です。
手帳は、未来を書き記すだけのものでは
ありません。
過去を振り返るところに意味があるから。

もしあなたが紙の手帳をお使いなら、
2週間前を開いてみてください。
ほんの少し前なのに、随分忘れていませんか?
1月前、4ヶ月前、今年のはじめの頃と
ページをめくっていってください。

「この時、大変だったよなぁ」
「この人との出会いは、衝撃だった」
「このミスは、痛恨だった」

などと色々な思いが蘇ってくるはずです。

もちろん、過去を振り返ることは
スマホにもできます。
しかし、手帳には手書きの強さがあります。
焦って書き込んだ字、忘れまいとして、太く
大きく書いた字、ペンの色やにじみ、字の
勢いや乱れ。
あなたの気持ちが文字になって現れている
はずです。

私の部屋には、手帳だけを集めた箱が
あります。

大学浪人したときの受験手帳に始まり、
大学手帳を経て、入社以来35年にわたる
手帳が年の順に並んでいます。

時折それを手にとって、5年前の自分、
10年前の自分を眺めてみる。
今から思えば大事ではないことでクヨクヨと
悩んだり、有頂天になっている自分がいます。
今ではもう会うことのできない人との語らい。
当時、眼前に広がった景色や匂いが蘇って
きたりもします。

大切なのは、手帳の横にちょこちょこ
書いたメモ。
若い頃から、本や人から聞いた言葉を
書きこむようにしています。
その言葉が、書店で売られている名句や
箴言の書より私を奮い立たせてくれるのです。

手帳は、未来の予定を記すだけのツールでは
ありません。
過去の自分の暮らし、考え方、生き方を
赤裸々なまま保管する装置でもあるのです。
それを時折見返すことで、今の自分が
過去の上に成り立っていることがわかる。
未来とは、その小さな歴史の積み重ねの
上にあるのだと実感できる。
何より大切なのは、今日1日が、
二度と訪れることのない貴重な時間で
あると心に刻むことができるのです。

来年の手帳には、「2020」と
切りのいい数字が並びます。
「令和」と書かれた初めての年の
手帳にもなります。

手帳のコトダマは、来年のあなたを
きっと奮い立たせてくれるはず。
来年のあなたにふさわしい一冊を
選んでくださいね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。