コラム

Vol.39

by ひきたよしあき 2019.10.21

命を守るコトダマ

東日本大震災の後、私は仙台で
復興に関わる仕事をしていました。

そこで聞いた言葉に、

「てんでんこ」

がありました。

東北地方の方言で、「各自」「めいめい」
という意味。

「津波のときは、取るものも取り敢えず、
肉親にもかかわらず、自分の判断で高台に逃げろ」

これを「命てんでんこ」「津波てんでんこ」

という言葉として、伝承していたのです。

親や子どもを顧みずに、逃げろ。

そんな意味にもとれます。一見、冷たい言葉の
ようですが、そんなセンチメンタルな気持ちを
かき消すように現実は厳しいものがありました。
甘い気持ちでいたなら、未来につなげる命を
無駄に落としてしまうのです。

当時は、テレビや新聞にもよく取り上げられて
いました。

「でも、最近は聞かないなぁ」

と思っていたら、違う言葉となって
息づいていることを先日発見しました。

皆さんも、台風に関する情報をテレビが
伝えるとき、

「命を守る行動をしてください」

とアナウンサーが言うのを聞いたことが
あると思います。

以前は、「避難してください」と言って
いたところを今は、「命を守る行動」と
語るようになっています。

「避難」という言葉は、ただ「逃げろ」と
言っているだけです。

そういわれても、どこへ逃げればいいのか
わからない。「逃げろ」と言われて外に出たものの、
家にいた方が安全だったなんて場合もあります。

より具体的に「てんでんこ」の精神を
全国に伝えるにはどうすればいいか。

これを考えた末に、
避難行動は、自然災害から「命を守る行動」
という言葉が定着。
行政やマスコミもこの言葉を使うように
なりました。

「命を守る行動」は、ただ避難所に逃げこむ
だけのものではありません。
自分の判断で、夜、外にでるほうが危険だと
思えば、自宅の一番安全な部屋にいる。
これだけ多発する自然災害に備え、水や食料、
靴や下着などを用意していくことも、この
言葉には含まれます。

何より大切なことは、家族で

「命を守る行動」

について話し合っておくこと。

その際、少し冷徹かもしれないけれど、
東北に伝わる「てんでんこ」の精神を共有して、

「台風や地震のときは、取るものも取り敢えず、
肉親にもかかわらず、自分の判断で安全な場所に逃げろ」

と各々が心に刻んでおくことも大切でしょう。

未曾有で、常識はずれで、想定外の自然災害が
日常化しつつある日本。

こどもにも大人にも、まず刻まなくてはいけない
コトダマは、「てんでんこ=命を守る行動」だと
猛威を振るった大型台風が過ぎ去った青空を
眺めて確信したのでした。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。