コラム

Vol.37

by ひきたよしあき 2019.09.24

変化するコトダマ

20年近く同じヘアカットサロンに
通っています。
担当のYさんが新人のときの客が私。
今はもう店長ですから時の流れを
感じます。

彼はスタッフの健康管理や教育にも熱心です。
昼食はみんなの栄養を考えてまかない料理
がふるまわれる。湘南からとれたての野菜を
取り寄せたりもしています。
マナー教育やワークショップも毎週のように
やっていてスタッフの一般常識から接客する
際の言葉遣いまで広く心を配っています。

「ところがひきたさん。この頃の新人と
話していると、一瞬、意味がわからない
言葉遣いに頻繁に出会うんですよ」

耳元でチョキチョキ鋏を動かしながら
浮かない顔のYさん。

「4月に入った子なんですけどね。

『いい意味で、面倒臭いですよね』

というんです。
はじめは、『面倒臭い』って言葉に
反応して、カチンときたんですが、
『いい意味で』が前についている。
これを聞いて、どう反応していいか
悩みました
褒められたのか、批判されたのか、
イマイチ、よくわからない」

確かに、聞いているだけでは、
「いい意味で」に重きが置かれているのか
「面倒臭い」を和らげようとして
「いい意味で」をつけているのか
真意がわかりません。

「よく聞いていると、

『いい意味で、上から(目線)』とか
『いい意味で、へた』とか、
やたらと『いい意味で』をつけている。
最後は必ず、批判めいた言葉がくるので
カチン、カチンとくるのですが、
どうも悪気はないらしい。

こういう場合、どう注意すればいいのでしょうか」

その後、私の大学の学生に聞いたところ、

「テレビでやっていた気がする」とか
「『いい意味で』万能説がある」とか
様々な意見がでました。

「私たちもよく言いますよ。
ゼミの発表で、ある人の発表が、
難しくて、つまんなかったとき、
それを、そのまま言ったら、傷つくでしょ。
だから、

『いい意味で、難しい』

なんて言うんです。
言いたいことは伝わるし、あんまり
相手を傷つける感じもしないでしょ」

私は悩みました。

かたや「いい日本語とは何ですか?」
という質問に、

「インターネット翻訳で正確に翻訳される
日本語」

と答える学生もいる。
正確に訳されるためにいちいち主語が
ついている。
わかりきっている主語は省くように習って
きた我々世代には、どう考えても「いい文章」
に思えません。

しかし、間違いなくAI時代の日本語は、
行間を読むとか、主語を省くなんてことが
なくなってくるのかもしれません。

時代とともに言葉は変化していきます。
環境や技術や人の心理状態によっても
様々にかたちを変え、あたらしい意味を
生み出していく。

ものすごく大きな時代を
私たちは生きているのではないか。
コトダマも様々にかたちを変えているのです。

「いい意味で、面倒くさい世の中だな」

さっぱり切りそろえた頭をなでながら
そんな風に感じていました。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。