コラム

Vol.36

by ひきたよしあき 2019.09.09

作者のコトダマ

本に書いたコラムを高校入試に
使って頂いたことがあります。

その問題が送られてきて、早速
解いてみたのですが、難しいのです。
作者の私が、作者の意図を読みとれない
のです。

ダメな受験生のように当てずっぽうで
三択からひとつ選ぶと、当たっていた。
しかし、なぜこれが正解なのか、
今ひとつ確信がもてないのです。

過去に著名な作家が、自分の書いた
小説が試験にでて、ちっとも答えられなかった
と書いているのを読んだことがあります。

「なるほど、本当にそうだ。
作者の気持ちや意図が、この答えにない!」

と深く共鳴しました。

先生として、三択問題を作った経験もあります。
まず、さっと読んだときにひっかかりそうな
箇所の単語をちりばめて、「間違いの解答」を
つくります。

次に、普通に読んだのでは導き出せない
意外なこたえを、「深い読み解きから導き
出された解答」のように見せかけます。

最後に、解答の理由となる一文を引用して
「誰からも否定されない解答」を作ります。

長さを調整したり、順番を考えたりする。
子どもたちの心理を読んで、なかなか解けない
ように作るとき、

「私はなんて、意地の悪い男なんだ」

と悲しい気分になったものです。

しかし、こうして三択の問題を作る作業と、
「作者の意図や思い」を考えることはどこか
微妙に違っている。
三択問題は、どんなにがんばっても、
落としたり、ひっかけたりする要素が入って
しまい「作者の意図」と微妙にズレていく。

私が自分のコラムの解答をなかなか選べなかった
のは、このズレのせいだと思っています。

先日、都内の公立小学校を訪れ、校長先生と
お話する機会を得ました。

先生は、最近の受験問題の傾向や都が実施する
共通テストを分析しながら、

「三択が、めっきり減りました」

とおっしゃいました。

確かにどのテストにも100文字程度の記述
問題が増えている。
単純な三択問題は、影を潜めたようです。

「これは採点が大変ではないですか?」

と私が質問すると、

「大変ですが、子どもはこんな風に考えるんだ!
と学びや発見が多いんです」

とおっしゃいました。
国語教育が、だんだんと良くなっているように
思え、嬉しくなりました。

作者が何を意図し、思って
この文章を書いたか、100字にまとめてみる。

こんな当たり前の学習が戻りつつある。
喜ばしいことです。

では、自分のコラムに戻って、

「これを書いた作者の思いを100字にまとめよ」

と問いかけてみたところ、やっぱりよく
わからない。

「この作者、結局何も考えずに書いているんじゃないか」

そんな疑問ばかりが広がり、
苦い気持ちになりました。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。