コラム

Vol.33

by ひきたよしあき 2019.07.22

夏休みのコトダマ

大学受験に失敗し、かなり腐っていたときに、
現役で大学に入った友人に会いました。

「お、元気か?」

と言ってでてきた言葉が、
「レジュメ」「単位」「一般教養」「ゼミ」
「サークル」「コンパ」・・・と言った
大学生用語。

卒業してから3ヶ月ほどしか経って
いないのに、彼が遠い世界にいってしまった
ように思えました。
その上、私は6月に体調を崩して入院。
半月ほど、寝たり起きたりしていました。

やっとの思いで受けた模試の成績は、
過去最低。
目標の大学がどんどん遠のく焦燥感に、
打ちひしがれていました。

思いあまって予備校の英語の先生に
相談に行きました。

浪人したことにクヨクヨするばかりで
勉強に集中できない。
その上病気にまで、成績が落ち込んでいると。

すると、先生は大きな黒縁のメガネを
こちらに向けて、

「基礎固めに徹しなさい。それが
できるのは夏休みまでだ。
8月31日までの時間を区切って、
全教科、基礎固めに徹しなさい」

と言って、基本単語を覚えること。
文法をもう一度やり直すことを勧めて
くれました。

正直、「そんなことか・・・」と
がっかりしたものです。
友人は、「一般教養の心理学は・・・」
なんて話しているのに、私は、高1からの
勉強のやり直し。
受験生の中にはすでに、過去問題を何度も
やっている人がいるのに、私は
「基礎固め」か、と絶望的な気持ちに
なりました。

しかし、確かに私は基礎学力がなかった。
あってもムラがありました。
語彙力もないくせに難しい長文を英訳
しようとするから辞書ばかり引いている。
騙された気持ちになって、基本単語の
単語帳を作って覚えたり、簡単な
文法問題に取り組んだのです。

先生に言われた通り、基礎にあてる時間は、
1日4、5時間。
辛い時間でしたが、発見もありました。

「あぁ、ここは高2のときに風邪を引いて
休んで、苦手意識があったんだ」

などと、自分の「つまづきポイント」が
見えてきたのです。

文化祭に熱中してサボっていた箇所。
先生が嫌いで避けていた箇所。
女の子に熱をあげていて、勉強どころでは
なかった箇所。

自分の中で「臭いものに蓋」をしていた
箇所が次々とわかってきました。

夏休みが終わって、模試を受ける。

成績はあがりませんでした。
やけになりかけて、また先生のところに
いくと、

「過去問をといてみなさい」

という。
素直にやってみたら、え?ほんと?
めっちゃくちゃわかる!
できる!いけるかも!

これまでに味わったことのない感覚が
自分の中に走りました。

そこからは「走れメロス」のように勝利を信じて
ひたすら走り続けました。
11月も終わりの頃になると、
目標大学の偏差値を突破。
現役のときの不安定な成績とは違う
どっしりとした学力が身についていました。

さて、夏休みのコトダマです。

それは「基礎固め」。

何かをやろうと決心したとき、先に急ぐ
気持ちを抑える。
スタートラインに戻って、着実に基礎を
固めていく。

きっとこれは勉強だけでなくスポーツにも
仕事にも言えることではないでしょうか。

「夏を制するものが受験を制す」

と古くから言われています。
これは、

「夏に基礎を制したものが受験を制す」

だと私は考えます。

暑い夏になりそうです。
体に気をつけて、まずは基礎から
固めていきましょう。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。