コラム

Vol.26

by ひきたよしあき 2019.04.08

体験のコトダマ

桜の花が散ると、いよいよ新しい
時間が流れ始めます。

進級・進学する人、
社会人としてスタートする人、
新転地で気持ちを新たに働き始める人。

今年は新しい元号「令和」になります。
日本人の気持ちが最もフレッシュなのが
この時期でしょう。

新しい生活が始まれば、
新しい体験も始まります。

小学校から中学校に上がった
子どもたちは、「算数」が「数学」に
変わります。
「部活動」に入って、仲間と
切磋琢磨するようにもなります。

どれもこれも新鮮。
ワクワクすることばかり・・・

といえば、きっと嘘になる。

新しいことを始めるのは、
大変なストレスがかかるもの。

「やっていけるだろうか」
「自分に向いているのかな」
「前の環境の方が楽でよかったな」

そんな不安が常に頭にうずまくのも
この時期の特徴です。

さて、その不安をどう乗り越えるか。
その解決策として、入社したときの
先輩が、こんなことを言いました。

「とりあえず、やってみればええやないか。
できるできないはそのあとや。
ただ、やってみる。それで十分や」

広告会社に入ると、様々な商品の
広告制作依頼が入ってきます。

よく知っている商品ならまだしも、
自分とは無関係の商品もありました。

「あの、私、まだ白髪染めはわからない
んですけど」

「すみません。私、便秘しないんで、
使ったことないです」

どちらかといえば、これまでの自分に
無関係なものの方が多い。
しかし、そこで断っていたのでは、
プロの広告マンにはなれません。

そんなとき、先輩がかけてくれたのが、

「とりあえず、ただやってみる」

という言葉。
これで気持ちのハードルがぐっと
低くなりました。
どんな商品がきても、どんな新しい体験を
もとめられても、

「できるかなあ」

と悩む時間を節減し、とりあえずやることを
選ぶようになれました。
うまくいかないことも、たくさんありました。
飛び込んだあとに後悔したことも多々あります。

しかし、実際にやってみると、自分の弱点も
わかる。

「なるほど、こういう経験を積んでいけば、
あれくらいの結果をだせるんだな」

という目安もできてくる。

「自分には何が向いているのか」
「なぜ、好きなことをやらせてくれないのか」

などと、考えたところで結論のでない
問題を抱えて動かずにいるよりよほど
健康的です。

新しい体験を求められている
今のあなたに、贈りたいコトダマは、

「とりあえず、ただやってみる」

悩むのは、やり始めたあとからで十分です。

先輩はもう、この世にいないけれど、
桜の季節になると、この言葉を思い出します。

「新しいぞ、私は!」

と、葉桜の光の中を歩きたくなるのです。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)
    「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」
    (かんき出版)他3冊。