コラム

Vol.20

by ひきたよしあき 2019.01.15

ネタ帳のコトダマ

関西と関東の芸人を比較するとき、
「ネタの探し方」において
かなりの差があります。

関西芸人の多くは、子どもの頃の
自分からネタを探してくる。
自分と家族とのかなり恥ずかしい
エピソードまでを題材にします。

しかもその描写が克明で、
誰の頭にも同じ映像が浮かんでくる。

おかんが寝る前に、

「もう、かぁさん、寝ます!」

と怒った顔で子供に宣言してから寝る。

親戚の家から帰ろうとすると、

「あら、もう帰るの?ナシ剥いたとこやのに」

と引き留められる。

こうした話は関西人にとっては年齢差、
地域差関係なく、ツボです。

私はこうしたネタが大好きで、
悩みや心配事で眠れそうにないときは、
YouTubeで関西系漫才を聞くことにしています。
バカバカしくて、懐かしくて、
睡眠導入効果は抜群です。

なぜ、関西のお笑い芸人は、まるで
昨日のことのように子ども時代を笑いに
できるのか。

私はそこに「ネタ帳力」があると思うのです。

私が西宮で小学校時代を過ごしたのは
今から半世紀近くも前です。
しかし、当時も「お笑い」は大人気でした。
学校の七夕会、クリスマス会の出し物は
男女関係なく、漫才かコントばかり。
私も、新町くんという大柄の友だちと
コンビを組んでいました。

クリスマス会の前は、各コンビや
チームが、あっちでコソコソ、こっちで
ヒソヒソとネタの話をしています。

「月着陸したときのかっこう、なんや
おしっこもれそうやなかったか?」

とアポロの月面着陸をネタにしました。
新町くんも私も、小さなネタ帳をもち歩き、
先生の歩き方のくせや、怒ったときの
セリフなどを書き留めました。

今から思えば、この時の「ネタ帳」作りが、
私が文章を生業とする原点でした。
本を読んでも、面白い言葉はネタ帳に書く。
うんちくネタも書き込む。
いつも勉強のノートとは別にもっていた
ネタ帳にあれこれ書き込むことで、私は
文章の修行をしてきたようなものでした。

関西の芸人の話を聞いていると、
私は、自分がネタ帳を持ち歩いていた頃を
思い出します。

「あぁ、このネタやったら僕も書いとくなぁ」

「これは、書かんな。僕には下品すぎる」

などと半分、コント作家気分で漫才を見る。
だから悩みも心配事も消えるのでしょう。

「これは面白い!」

と思ったら、すぐにノートに書き留める。
タクシーの運転手さんの話でも、
電車の中の会話でも、気にかかったフレーズ、
ふっと笑いがこみあげてきた言葉、
「うまいなぁ」と脱帽した言い回し。
なんでもかんでも、白いノートに書き留める。

このちょっとした習慣を50年近く
続けていると、2000字程度の文章に
困ることはありません。
キックベースボールをする際に
石灰で引いた線が曲がった様子を仔細に
描写することができます。

みんなにウケたい!笑ってもらいたい!
すごいと言われたい!
ほーっと感心されたい!

関西人の中に脈々と流れる
人の笑顔を希求する「ネタのコトダマ」が
小学生の私と今の私をつなげてくれます。

2019年。
あなたも「ネタ帳」を持ち歩いて
みませんか。
世の中の人がおもしろ可笑しく
見えるはず。
毎日がちょっと楽しくなること、
うけあいです。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。