コラム

Vol.03

by ひきたよしあき 2018.05.01

コトダマが叫んでいる

小学校3年生の男の子から手紙が来ました。

「プールで25メートル泳ぎたいけど、
息つぎがうまくできません。
夏休みにがんばって練習します」

大きな文字の他に、色鉛筆で
波やセミやスイカが描かれている。
明るく、元気のいい印象の手紙でした。

すぐに

「私は自分の肩を見るようにして
息つぎを覚えました」

と返事を書いたら、
翌日、また手紙が来ました。
同じ封筒だったのですぐに
わかりました。

「あれ、もう届いたのかな?」

と思って封を開くと、こんな内容です。

「前に送ったのは、お母さんが見て
いるところで書いた手紙です。
前の手紙は、全部、ウソです。

ぼくは今、とっても困っています。

お父さんが、暴力をふるいます」

彼は手紙の出し方を
知らなかったようです。
一度目の手紙で住所を書き、
切手を貼ってポストに入れることを
お母さんから教わりました。

それがわかって、すぐに手紙を
書いてきたのです。

さて、困った。

まともに応えれば、必ず
ご両親が封を開けて私の手紙を
読んでしまうでしょう。
返事がこなければ男の子は
失望するに違いありません。

あなたなら、どんな行動を
起こしますか?

私の答えは、

「口で言うのがつらいときは、
手紙に書いて渡してごらん。
ただ言うのと、ちゃんと考えて、
手紙を書くのでは、伝わり方が
ぜんぜん違うんだよ」

非常に悩んだ末に導き出した
結論です。
親が見ても、男の子を怒らない。
男の子が読んだら、解決への
アドバイスとして読める。
「親に正直に手紙を書く」という
内容でした。

妙案だと思ったのですが、
それからひと月たっても手紙は
きません。
プールの季節が終わって、
紅葉の季節を過ぎて、
クリスマスに入る直前に
見覚えのある封書が私のところに
届きました。

「おとうさんが、泣いて
あやまってくれました。
もう元気です」

クリスマスツリーを相変わらず
色鉛筆で描いてくれている。
以前よりも少し字が大人びて
見えます。

しかしこの手紙に書かれている
ことは事実なのか、
「こうなってほしい」という
願望なのかはわかりません。
親に書かされた可能性だって
あります。
本心は読み取れませんでした。
でも、彼のコトダマの叫びは
聞こえてくるようでした。

子どもとの手紙のやりとりは、
楽しいばかりではありません。
むしろ子どものコトダマが、
本当の気持ちを誰かに伝えたくて、
叫び声をあげていることが
多いのです。

以降、彼からの手紙は来なく
なりました。

強く、楽しく、ご両親とも仲良く
過ごしていることを、ただ願う
ばかりです。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)
    「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」
    (かんき出版)他3冊。